肥前吉田焼を知っていますか?産地見学会で感じた出会いの予感
photo / text = ハマノユリコ
全国から総勢約50名が参加した肥前吉田焼産地見学会
残暑厳しい8月末の昼下がり、
緑豊かな山間にある肥前吉田焼窯元会館に集まる人、人、人。
肥前吉田焼デザインコンペティションの関連イベントとして企画した
産地見学会に参加してくださる皆さんが、シャトルバスから続々と降りてきました。
決して交通の便が良いとはいえない嬉野・吉田の地に、本当に人が集まるだろうか
という関係者一同の不安をよそに、フタをあけてみれば、定員を上回る約50名もの
申し込みをいただき、大盛況の産地見学会です。
佐賀や福岡近郊だけでなく、東京、大阪、京都、北海道に鹿児島など、
遠方から泊まりがけでご参加いただいた方も多く、その期待度に身の引き締まる思いがしました。
13時からと15時からの2回に分けて設定された見学会には、各回約25名が参加。
それぞれ別の見学コースを回ります。
窯元会館で受付をすませた参加者たちは、この日のために制作された
「吉田皿屋マップ」を受け取り、いざ出発です!
13時からの回に参加した方は、辻与製陶所で染め付けと転写の現場を、
副久製陶所で機械ろくろによる成型と呉須による絵付けの濃みを見学。
15時からの回では、副千製陶所で排泥鋳込みと削りの説明を受け、
副正製陶所で釉かけとイッチンの技法を見学していただきました。
参加された皆さんはコンペへの応募を検討いただいていることもあり、デザインを勉強している学生や教員、
インハウスやフリーランスですでにデザイナーとして活動している方など、デザインに対する基礎レベルが高く、
見学現場では「収縮率は?抜け勾配は?」など専門的な質問が飛び交っていました。
対応にあたる窯元の職人たちにの説明にも気合いが入ります。
茶器づくりの職人技
うれしの茶を特産にもつ地域柄、吉田には土瓶や急須など茶器を製造している窯元も多く、
毎日茶こし穴を開け続けて何十年という茶こし職人さんもいるほど。
今回は、バラバラに成型された急須パーツの組み立て作業を見学させていただき、
柔らかすぎず乾燥しすぎず絶妙な生地の状態を見計らって、手際良く接合する職人技に感嘆の声があがりました。
独自の道具が生み出す伝統技法
酸化コバルトを主原料とする絵の具「呉須(ごす)」を使い、素焼きした生地に下絵(染め付け)を施す工程で、
「濃み(だみ)」と呼ばれる技法を見学した参加者は、
その技術もさることながら、液体状の呉須絵の具が容器の中で渦を巻いている様子にも興味津々。
絵の具を沈殿させず、絵付けにムラがでないように保つ工夫なのですが、
そういった不思議な道具を目にするのも、現場を見学すればこその醍醐味です。
各窯元で、自分たちが使いやすい独自の道具を手作りすることも珍しくありません。
化粧土や釉薬を細く絞り出し、盛り上がった模様を描く「イッチン」という技法を施す道具もそのひとつ。
ケチャップ容器に注射針をつけたり、100円ショップで購入した化粧品用の入れ物に細工をしたり、
シャープペンシルのペン先にビニールテープを巻き付けてチューブ状の容器にしたり。
身近なものを使い試行錯誤して自作した道具で、伝統的なやきもの技法が成り立っているなんて驚きです。
「定着したイメージがないこと」、それはデザイナーにとって可能性
肥前吉田は、窯元7社、問屋1社、計8社による小さな産地です。
それでも、それぞれに確かな思いをもって、産地を守っていこうと模索しています。
今回参加いただいた皆さんに「肥前吉田焼を知っていましたか?」と聞くと、ほぼ100%「知らなかった」という答えが返ってきました。それが現状です。
それなのに、わざわざこの吉田の地へ足を運んでくれた思いは何だったのでしょう。
「やきものの産地を直に見学できる機会なんてなかなかないので、すぐに参加を決めました」
「悩みに悩んで勇気をしぼって参加しました」
それぞれに何らかの可能性を感じて参加してくれた人たちから、
「産地の熱い思いが伝わりました」
「街並みがとても素敵で、ものづくりをしている方々の姿を見ることができて良かった」
「もっと多くの工程を見学してみたくなった」
「また訪ねたい街だと強く感じた。友人・知人にも吉田の魅力を伝えます」
そう言ってもらえたことが、産地に携わる者たちの何よりの励みです。
産地をもっと面白く
有田焼も波佐見焼も肥前吉田焼も、素材や製法に変わりはありません。
その中で、「吉田だからできること、吉田らしさって何?」と思い悩む産地の人々ですが、
「技術と歴史はあっても定着したイメージがないこと」、それはデザイナーにとって可能性になるのではないでしょうか?
肥前吉田焼デザインコンペティションは、肥前吉田焼の世界観を産地の職人たちと向き合いながら
一緒に悩み作り上げていくことに価値を感じていただける方にこそ参加してほしい企画です。
デザイナーと作り手という関係を越えたパートナーとなりうる方との出会いに今から期待が高まります。
「吉田という産地をもっと面白くして、世の中の人に知ってもらいたい。未来に産地を残したい」
交流会の最後に、副久製陶所の副島久洋さんが締めくくった言葉が印象的でした。
肥前吉田焼がこれからも魅力的なものを生み出し続けるために、産地は生まれ変わろうとしています。
産地見学会の開催は、そんな思いを伝える第一歩となったのではないでしょうか。
肥前吉田焼デザインコンペティション
参加申込み締切:2016年9月30日(金)
●やきものづくりの基本的な流れをムービーで公開中 今回の産地見学会では製造工程のすべてを通しで見ていただくことができず、イメージしにくかった方もいるかもしれませんが、それも分業制で成り立つやきものづくりならでは。製造の基本的な流れについては、公式サイトのムービーでもご紹介していますので、ぜひ参考にご覧ください。 製造工程の説明はこちら
●企画展示「肥前吉田焼ミュージアム」 もしも嬉野に行きたい!と思ってくださる方がいましたら、嬉野温泉街の和多屋別荘に設えられた「吉田焼ミュージアム」もおすすめです。 器の断面展示や、やきもの作りの道具、各窯元の代表作など、肥前吉田焼の歴史とポテンシャルを感じるインスタレーションをお楽しみいただけます。『うれしの晩夏』期間中に和多屋別荘のホワイエにて展示されましたが、好評のため期間を延長して開催中です。 ・肥前吉田焼ミュージアム 日時:8月26日(金)〜期間延長中 9:00〜22:00 ※終了しました 場所:和多屋別荘 ホワイエ MAP 料金:入場無料
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