幻想的な光をまとう特別な夜 吉田皿屋 光のイベント「ひかりぼし」
photo / text = ハマノユリコ
3500個のキャンドルが揺れる幻想的な光のアート
小さな磁器産地、肥前吉田焼の窯元が集まる吉田皿屋で、2018年10月7日と8日の2日間のみ開催されたイベント「吉田皿屋ひかりぼし」。
肥前吉田焼窯元会館前の駐車場には、約2000個の「ボシ」が並べられ、LEDキャンドル約3500個による幻想的な光のアートを披露しました。
ボシとは、陶磁器を焼成する際に使う窯道具のひとつ。
湯のみなど高さのあるものを重ねて焼成する際に、効率よく窯詰めするために用いられます。
食生活の変化により、洋皿や平皿の製造が主流となり、少量多品種での窯詰めも多く、ボシ使わずに焼成することが増えましたが、ちゃわんや湯のみなどを大量に製造する窯元では、比較的よく使われている窯道具です。
今回、このボシを使った光のイベントを企画・運営したのは、地元の窯元関係者など少数の有志。
話を聞くと皆、「大の大人が学園祭みたいなノリで」と照れ臭そう。
楽しみながら気軽にやっているようでいて、開催の日を迎えるまでの道のりは困難も多かったようです。
吉田を盛り上げていくには?
企画が持ち上がったのは約一年前。
トレジャーハンティングで人気を集めている吉田の焼きもの商社「ヤマダイ」の息子であり、
東京でグラフィックデザイナーをしている大渡大士さんと、
肥前吉田焼の窯元「224porcelain」の代表、辻諭さんの雑談から始まりました。
「吉田を盛り上げていくには、どうしたらいいか?」
この数年吉田では、「肥前吉田焼デザインコンペティション」の開催を皮切りに、外部デザイナーとの商品開発の取り組みや、
製造過程でどうしても生まれてしまうB品を意識してもらう「えくぼとほくろ」の試みをはじめ、
各窯元でのワークショップなど、肥前吉田焼の産地として生き残りをかけたさまざまな仕掛けを行なってきました。
こうした産地の活性化を一過性に終わらせず、恒常的なものとするにはどうしたら良いか。
産地を思う二人の熱い思いが、周囲を巻き込み広がっていったのが、「吉田皿屋ひかりぼし」です。
周囲の力に支えられた「ひかりぼし」
廃業した窯元から古いボシを集めて、テスト的に並べてみたのが開催の半年前、今年4月のこと。
プロモーション映像を撮影するため、1000個ほどのボシを並べて試験点灯するも、そのセッティング作業だけでも一苦労だと実感します。
キャンドルは、一般的なロウソクでは長時間もたず、火を使うことによる危険もあることから、キャンドル風のLEDライトを採用することに決め、4000個を購入して開催の準備を進めました。
イベントの告知に必要なフライヤーの制作など、グラフィックまわりは、本職でもある大渡さんが一手に引き受け、「ひかりぼし」の魅力をより効果的に伝える映像は、地域おこし協力隊の一員である西信好真さんが担当。
開催当日、ボシを会場に並べる作業、撤収の作業など、力仕事も、
窯元の皆さんをはじめ、声をかけた友人知人が、快く協力してくれました。
企画、PR、運営と、すべてのことを有志スタッフで行なった「吉田皿屋ひかりぼし」。
近隣の各窯元でもライトアップイベントを同時開催し、多くの方に来場いただけるよう導入した巡回バスも功を奏していたようです。
会期中のイベントとして、イタリアンレストラン「トラットリヤ ミマサカ」とのコラボレーションにより肥前吉田焼の7窯元の器で提供されたスペシャルディナーコースのご予約は連日満席で、食事の後、ひかりぼしを楽しみに訪れるお客様も多くいらっしゃいました。
寒い夜、あたたかいコーヒーを提供する出店や、光の空間を楽しむDJによる音楽の演出など、運営協力スタッフのおもてなしの心遣いが心地よく、来場した皆さんも思い思いにゆったりと過ごされていたようです。
ひかりぼしを開催した10月初旬はちょうど新月の時期。
もともと街灯の少ない吉田ですから、空はますます暗く、満天の星がきれいに輝いていました。
星の光と、ボシの光。
双方の柔らかな光に包まれ、豊かな気持ちがわいてくる、特別な吉田の夜となりました。
同時開催:窯元ライトアップイベント
各窯元は、ひかりぼしに合わせてナイト営業を行い、ライトアップした工場見学や直販をお楽しみいただきました。